にぼし備忘録

日記的ななにか

二人のレナータさん・・・?

黒熊亭を訪ねたら何やらグレンさんの元気がない。
聞いてみると、いなくなったレナータさんが帰ってきて2階にいるんだって。
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じゃあもっと嬉しそうな顔してないとじゃない?

みんな大急ぎで2階のレナータさんの所に飛んで行った。
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みんながどこに行っていたのか、どうしていたのか口々に尋ねたんだけどレナータさんの様子がおかしい・・・。
まるでオレ達の声も届いてないみたい・・・?
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グレンさんに聞くと帰って来てからずっとこんな状態で、どうしてなのかさっぱりわからないんだってさ。
みんなどうしようか迷ったけど、とりあえず彼女が帰ってきたことを叔母さんに伝えに行くことにした。
きっと心配してるはずだもんね?
もしかしたら逆に心配させるかもしれないからねぇ、どんなふうに伝えたらいいのかなぁ・・・?

今回はグレンさんも一緒に叔母さんの家に行った。
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だけど今日は叔母さんもお留守で家は空っぽだ。
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誰も居ない居間の机の上にはメモがあった。

走り書きでぽつぽつと書かれている内容はどういうことだかはっきりとわからないけど、物騒な言葉が並んでいる。
何か大変なことが起こったのかも!?
そしてそれはフェルッカで起きているらしい。
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詳しい事情はわからないままだったけど、叔母さんが一人で向かったんならほおって置けないよね。
みんな急いでフェルッカに向かい、はぐれたり散々迷って叔母さんにようやく会うことができた。
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叔母さんはレナータさんが近くの山賊達に捕えられている知らせを受け取って、ここまで来たんだってさ。
それを聞いたオレ達は助太刀を買って出て山賊の砦に突撃!
砦には山賊だけじゃなく、怪物どももうじゃうじゃいた。そいつらを倒しながらみんなでレナータさんを探した。
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するとその大騒動の中でおろおろしているレナータさんの姿が見えた!
だけどレナータさんは呪文を唱え、忽然と姿を消してしまったんだよ。
みんなの呼びかけが届かないくらい混乱してたのかなぁ?まさかオレ達のこと忘れちゃったとかじゃないよね??

・・・あれ・・・おかしいよ?
レナータさんはオレらが黒熊亭を出る時は2階にいたはずだよね?
叔母さんはオレ達が訪ねていく前にレナータさんがさらわれたっていう知らせを受け取ったんだって言ってるし。
どうなってるんだろう?

黒熊亭に戻ってみると、グレンさんがレナータさんがまた居なくなったと言ってきた。
ええ・・・じゃあこっちにいたはずのレナータさんも居なくなっちゃったの・・・?
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叔母さんは心配のせいかピリピリして帰って行ってしまって、みんな少し気まずい・・・。
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でも、オレ達がメモを見つけて追っかけなかったら叔母さんも危ない目に遭ってしまったかもしれないしねぇ。
そもそもレナータさんが山賊にさらわれるようなことにどうしてなったのかもわからない。それもフェルッカに連れていかれるなんて。とうとうしまいにはどっちのレナータさんも居なくなっちゃったし。
んー・・・。

どうなっちゃってるんだろう!?


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諸説紛紛

しばらく後グレンさん宛に差出人の書かれていない一通の手紙が届いた。
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みんなで頭をつきあわせて読んでみると、レナータさんからの手紙だったんだよ。
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元気でいるってことと何やら品物を集めて、それをユーのエンパスアビーにいる人に渡してほしいっていうお願いが書かれていた。
全然予想もしていない唐突なお願い事だったからみんなもどうすればいいか戸惑っていたんだけど、他に頼りになる情報もないのでとりあえず品物を調達に出掛けることにしたんだよ。

オレが心当たりあるのはシーサーペントの鱗くらいだし、ちょうど船もすぐに出せる状態だったからオレはバーチンと組んで海へと出掛けた。
バーチンはブリタニアのことにかなり詳しいようで、シーサーペントが出やすいのはジェロームの港から東に行った海域だって教えてくれた。
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バーチンが言った通りジェローム沖に出るとシーサーペントがのんびり泳いでたんだよ。
すぐにバーチンが弓で仕留めてくれたんでオレは操船してるだけだった(汗

オレ達の分の調達がすぐに済んだから、そのあと他のグループの品物集めに助っ人に行ってから黒熊亭に一旦戻った。
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頼まれた品物を並べてみても、これをどうするのか誰も思い当たらなかった。
あの手紙が本当にレナータさんが書いたものなのかどうもまだはっきりしてないんだけど、オレ達は今のところ手紙しか手掛かりはないからねぃ。
みんなで品物を持ってエンパスアビーを訪ねた。

そこには手紙にあった通り、赤いローブを着た魔法使いのような人が居て、その人はレナータさんのことも黒熊亭のことも知っているみたいだったんだよ。
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グレンさんよりもだいぶ年がいっている、じいちゃんだったよー。

品物を渡して、レナータさんの行方や今どうしているのかをどうにか教えてもらえないかみんなで聞いてみたけど、じいちゃんははっきり答えてくれなくてさ、うーん、なんか説明しずらそうに見えたんだよね。
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みんなが聞きあぐねているとじいちゃんは「レナータはそのうち黒熊亭にもどす。心配するな。」みたいなことを言って部屋から出て行ってしまったんだよ。

不意を突かれてほんの少しみんなどうしようか迷ってしまった。
それでもすぐ誰かが追いかけようと言い出して、みんな慌ててじいちゃんの後を追って外に出た。
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だけどそんなに時間は経っていないはずなのに、じいちゃんの姿はどこにも見えなくなってしまった。
行き詰ったオレ達は仕方なく黒熊亭に戻って、グレンさんにいきさつを説明した。

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じいちゃんに集めた品物も渡してしまったし、結局またなんの手掛かりもなくなってしまってみんな少しがっかりしてしまった。
そんな様子を見たからなのか、グレンさんがオレ達に今日のお使いのお駄賃をくれたんだよー。
(バーチンが言うことにはグレンさんが人狼?とかいうなにやらでお金を儲けたって新聞に載っていたんだって!)

その後もみんなの話題は自然にレナータさんが今どうしているのか、あのじいちゃんが何だったのかってことにむかって、様々な予想やみんなが感じたことなんかがあれこれ飛び出した。
だけど色々並べてみたけど、結局決め手のあることは浮かんでこなかったんだよね。
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グレンさんからレナータさんの叔母さんに無事の知らせを書いて送ってもらおうにもどう書いたらいいか迷うよねぃ。
変に書いたら逆に心配になっちゃいそうだよー。

とりあえず今日はここまで。
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レナータさん、すぐにお手紙書いてくれると良いんだけど・・・。


いなくなったレナータさん

今日はずーっとカバンに入れっぱなしだったSOSボトルを釣りに出掛けた。
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相変わらず一人の船旅。
お供を召喚して引き揚げ作業だよ。
今回は新しいボトルも釣れなかったし、波が高くて余計に濡れそうだから一回だけでやめて家に帰ってきたよ。

帰っても家にアクアヴィータはいなかった。
多分、仕事の納品ついでにニナの所でお茶とおしゃべりをしているに違いないよ。
あー、オレも連れてって欲しかったなぁ・・・。
釣り上げてきたあれこれを片付け終わったらもうすることもないや。
ちょっと退屈だったからオレは『黒熊亭』に遊びに行くことにした。

お店にはみんながいて出掛けるところだった。
休暇を取っていた店員のレナータさんがいなくなってしまったと黒熊亭に手紙が届いたんだって!
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グレンさんに聞いてもさっぱり心当たりがないんだってさ。
心配になったみんなはレナータさんの行方を聞くために手紙を出してくれた人の家へ訪ねて行くことにした。

手紙をくれたのはレナータさんのおかあちゃんの妹さんで、ええと、叔母さんだった。
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叔母さんはレナータさんのおかあちゃんとおとうちゃんはうんと前に、レナータさんが小さい頃に亡くなってしまって叔母さんにひきとられて暮らしていて、大きくなってからユーの宿屋へ働きに行ったって教えてくれた。
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居なくなる前レナータさんはボーっとしていることが多くなったって言ってた。
なんだろう?

・・・まさか・・・あの『幽霊集め』で箱が爆発しちゃったことが元になったんじゃないよね・・・?

結局行く先については叔母さんも心当たりがないので、オレ達はおいとまして別の手掛かりを探すことになった。

叔母さんの家の近くにはアンクがあったんだよ。『献身』の神殿だってさ。
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キレイだねぃ。

そうだ。
叔母さんはひきとられてきて暮らし始めてからレナータさんが一年くらいも一言も話さず、笑顔も見せなかったこと、それがある日この神殿に来てから変わったって教えてくれた。
叔母さんはその時詳しく聞かなかったから何があったか知らないって言ってたけど、ここでなにかあったのかな・・・?
すごく気になるなぁ。

今日の所は黒熊亭に戻ってグレンさんに出来事を報告してみんなそれぞれ家に帰って行き、レナータさん探しはまた今度になった。
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心配だけど、手掛かりもないし探し回るにはもう遅い時間になってしまったからね。

オレはさ、黒熊亭に行き初めてまだそんなに経ってないからレナータさんの生い立ちとか全然知らなかったよ。
だしぬけに何処に行っちゃったんだろう?元気でいるよね??

収穫祭 8

「・・・ぅっく・・・」
思いもよらないあの人の強い力に跳ね飛ばされたオレは砂の上の倒れ込んだ。

オレはあの人の罵りも跳ね飛ばされた痛みも感じず、それよりも『奥方様』の手に噛付いた時の・・・うまく言えないんだけど、まるで中身のない空っぽの袋を膨らませたものを触っているみたいな手ごたえのなさにオレは驚いていた。
オレを捕まえに来たタヴィスという名前の下僕。ジプシーのロサに化けていた恐ろしい男でももう少し人間らしさがあった気がする。

・・・この人は一体何で出来ているんだろう?

おかしな言い方かもしれないけど、オレはその時そんな風に思ったんだ。

『奥方様』がオレ達のようなものへの怒りや苛立ちを投げつけている間、ジェイデンは無言のままあの人とオレの間に立ちふさがっている。

あの人とジェイデンは同族の者同士、ううん、それよりもきっと近い間柄だったんだろう。
懐かしい再会のはずなのに睨み合う二人に嬉しさはなく、ジェイデンの心は憐れみや怒りや悲しみ、そんなものがごちゃごちゃに混ざり合い張り詰めている。

このままだとジェイデンは『奥方様』をあの下僕のように殺してしまうかもしれない。
そんなのだめだよ。
だってあの人はあんなに苦しんで、悲しんでいるんだもの。
オレはどうしたら良いんだろう。二人のためにオレになにかできることはある・・・?

その時、目の前の踏み荒らされた物の中に秘薬が砂にまみれてこぼれているのが見え、スナ様が以前言った「火の魔法がお前の大切なものを救い、そしてお前をも救う」という言葉がオレの頭の中に響いた。

「ああ、お師様」
小さく呼びかけると乱れていた呼吸がすっと収まり、オレはようやく我に返った。
オレは身体を引きずるように無我夢中で這って行き、ばらばらとこぼれている秘薬を砂ごと掴み呪文を唱えた。

「Vas Flam」

唱えた魔法は呪文の体を成している程度のものだったけど、光と熱を放ちながら確かにそこに現れた。
オレが這いつくばったままそれを放つと小さな火はジェイデンの肩越しに微かに尾を引きながら輿の方へと飛んで行き、見る見るうちに火柱を上げながら、あっという間に輿を炎で包みこんだ。

ジェイデンは思いがけない方向から来た火の魔法に驚き、オレの方に向き直った。
「お前が火の呪文を唱えたのか?」
「うん。オレ今、今こそ、ぜ、絶対唱えなきゃって、お、思って。だけど、どうしよう、あ、あんなに火が」
想像以上に速く火勢を増す炎の怖ろしさにオレは唇を震わせながら答えた。

ジェイデンは少しの間無言のまま青白い顔で炎の方を見ていたけど、こちらに顔を向けると
「これで良い。もっと早くこうなるべきだった」
と、小さく言った。

髪の燃える嫌な匂いを放ちながら燃えあがる輿に近づいて行った『奥方様』が叫んでいる。
「あああ、燃えてしまうわ、私の髪達が。私の身体が燃えてしまう。ああ誰か助けて・・タヴィス!お願いよ・・・。」
炎の勢いが成す術もなく、彼女の叫びに応え助けるものもない今、彼女は言葉を失い呆然と立ちすくんだ。

そしてその身体が急激に輪郭を失い始めたのに気付くと幽鬼のような形相になり、こちらに向かって腕を上げた。
血のように炎が湧き出している指先をあてもなく差し出し、何事かをぶつぶつと繰り返し呟いている。

「ワタシヲ オイテイカナイデ。ワタシダケガ カラッポノママデ ミンナ ワタシヲ オイテイッテシマウ。 カアサン ワタシヲオイテイカナイデ。 ジェイデン フレドリック ・・・フェーン。ワタシヲ ツレテイッテ。 ココハ サビシイ。 トテモ サムイノ ・・・アア・・・」
呟きながらさらに彼女の身体は実体を失って行き、炎の中の影のように微かなものになりつつあった。

「苦しみはもう終わった。お前の大切な下僕がそう言っていただろう。・・・セシリー」
ジェイデンは古い記憶の中から蘇った彼女の本当の名前を呼びかけ恐れる様子もなく近付くと、彼女の身体から噴き出している炎に構わず彼女の手を両手で包んだ。

自分の古い名前を呼び掛けられ、手を取られた彼女はジェイデンの目を真っ直ぐ見つめ返すうちにその顔から怖ろしい表情が消えていった。

「クルシミガ オワッテ ・・・イタ・・・?」
「ああ、そうだ。タヴィスと出会った時には多分・・もう既に」
「ソウダッタラ ドンナニ シアワセ カ。イイエ。ソウダッタトシタラ・・・ ワタシハ ナニヲ シテシマッタノ」 

セシリーはジェイデンに手を取られたまま彼に良く似た顔に泣いているような微笑みを浮かべた。
そして次の瞬間彼女はジェイデンを突き飛ばすと炎を背に受け真っ直ぐに立ったまま勢いを増して吹き上げる炎の中へと消えた。

「セシリー・・・!」
ジェイデンは低く小さく叫び足を踏み出そうとしたが、力が抜けたように膝を折り手で顔を覆った。

彼女を呑み込んだ炎は周りの木を焦がさんばかりに更に大きく燃える。
すると炎を上げる輿に掛けられた髪の織布に縛り付けられていた魂たちが呪縛から解かれ、炎の中から次々空へと昇り始めた。
オレはジェイデンまで炎に呑まれるんじゃないかって心配で傍に行ったもののどうして良いか分からず、その怖ろしく美しい光景に圧倒され、見入っていた。

そして一番お終いに小さな光が飛び出しこちらにやって来た。

光はぼんやりと少女の姿を取り、ジェイデンの傍に佇んだ。
少女の唇が動き声にならない言葉を告げ、小さく頷くと空へ昇って行くと中空ですっと消えた。

そして、輿を燃やし尽くした炎が消え、囲い地はようやく静まり返った。

オレはまるで腑抜けたみたいに座り込んでいて、オレを呼ぶジェイデンの声で我に返った。
「大丈夫か? もうすぐここに騒ぎを聞きつけた人達が来る。小屋に戻ろう」

この囲い地はかなり森の奥のはずだけど、あれだけの炎だったからジプシーのキャンプからか、それとも惑わされて連れて来られここから逃げた人達が街へ報せに行ったのかもしれない。
ここからはまだかなり離れてはいるものの夜の闇の向こうから大勢の人の動いている音が微かに聞こえてくる。

周りを見るとトロルが暴れ客達が逃げ惑う時に蹴倒し、踏み散らかされた様々な物や地面に倒れたトロルやヒトの影がぼんやりと見える。

フラフラと立ち上がり、倒れた人影の方へ行こうとしたオレをジェイデンが呼び止めた。
「トロルは死んでいるし、人は死んではいない。怪我をしているが良からぬ場所へ来た報いだ。どのみちここへやってくる人達が助けてくれるだろう。行こう」

ジェイデンが呪文を唱え、オレ達はゲートをくぐってこの恐ろしい祭りの場を後にした。





森の奥の囲い地にベスパーの街から人々が連れだってやってきた。
魔法屋で雇われている錬金術師見習いのロブという少年が街のガードや自警団を訪れ、良からぬ集まりが森で行われていることを申し出たためだった。
収穫祭ではそのような悪さはよほどでない限り目をつぶられていた慣例もあり、祭りで浮かれる街の者達はのんびりとした反応だったが、森の奥で火の手が上がったとジプシー達まで助けを求めて駆け込んできたとあっては捨ておくわけにもいかなかった。

ロブの記憶を頼りに皆で到着する頃には火は鎮火した後で、覚悟してやって来た人達は拍子抜けしたものの奇跡的に森に燃え移らずに済んだことに安堵した。

囲い地の中にはごろごろと転がる大きなトロルの死体と、傷を負ったり酩酊状態で伸びている者たちが数名。
あちこちに宴会で使っていたであろう雑多な物が壊され、燃え残った残骸となって残されていた。

残骸は贅沢な品々であったが見る影もなく、一番燃えたであろう場所は白い燃え滓が残るだけで、それがどんなものでどこからやってきたのかは結局判らないままだった。

「あれだけの燃え痕じゃ、相当な火だったんだろうな。それが森に燃え移らなかったなんてなぁ。運が良かったよな?」
自警団の少年が友人でもあるロブに声を掛けた。
「あ、ああ」
二人の少年は囲い地から少し離れたところを飛び火がないか見回りながら歩いていた。

「まあ、これだけの火だし、最低でもたっぷり一日はまた火が出ないか見回りがいるだろうなぁ。 よう、どうした?何か気になるものがあるのか?」
自警団の少年は友人が話にうわの空であちこちを見回している様子を見て尋ねた。
「いや、なんでもない」
ロブは囲い地の方へと視線をやっていたが友人の方へ向き直ると言った。

「暗い森の中で皆と離れると危ないぜ。戻ろうや」
自警団の少年が戻りながら声を掛けた。

「ああ、今行くよ。 ・・・救いたい人は救って、為すべきことはやれたんだよな? ・・・ジェイデンさん」

ロブは小さな声で呟き、別れる前、決意のこもった目で静かに彼へ笑いかけた魔法使いの姿を思い浮かべていた。


収穫祭 7

止まることなく過去の光景が脳裏に浮かび、それを目にする彼女は放心したように虚ろな表情だったが、唇からはとめどなく言葉が溢れた。

「それを見た瞬間、私の身体の中の呪いが燃え上がり、灼けつくような渇きで身体が炎を噴き上げるように感じたわ。
貴方に一目逢えたらそれでいいと思っていた。だけど死に物狂いで辿り着いた貴方の傍には忌々しい取り替え子がまるで当然であるかの様に収まっている。言葉も碌に話せもしない哀れなオーク女のはずなのに身を美しく整えて赤い髪にとりどりの花を飾った姿はまるで花の冠を戴いた少女のようだった。
それに比べて私は・・・。
見初められて領主のフレドリックにまで嫁いだ私だったのに、今は呪いのために病み衰えた姿で誰一人庇う者もなく、寄る辺無き者になってしまった。

人だかりの中に紛れた私の刺すような視線に気付いたのかしら?フェーンがこちらを見た。
咄嗟に目を伏せた私がもう一度顔を上げると、あの化け物は目に笑みを浮かべたまま私をじっと見ていた。
フェーンがうわの空に他所を見ているのに気付いた貴方が何事か話しかけた。
するとあの化け物はあっという間に私のことを忘れ、再び貴方の音楽に合わせてにこやかに手を叩き始めた。
無心で楽し気に手を叩くその様はまるで幼子の仕草の様に不思議な愛らしささえ漂わせていたわ。
貴方は私とフェーンに何があったか気付かず、いいえ、周りの観客のことも全く目に入っていない様子で自分の指が奏でる音楽と心のままに溢れ出る詩にだけ心を傾けていた。
そんな貴方の熱に心を捉えられた観客達も音楽に合わせ楽し気に手を叩くもの歓声をあげるもの、精一杯着飾った祭りの晴れ着を翻し踊り出すもの、皆それぞれに祭りの熱狂を愉しんでいた。

そんな熱く輝かしい収穫祭の輪の中で私だけが惨めな泥の様に冷えた異質なものとなって佇み、取り残されていたわ。
いたたまれず人目から逃れるようにその場から離れると堪えていたやり場のない思いが溢れ、私は狂気のように叫びながら森の中へと駆け込んで行った。

悲しい。寂しい。苦しい。 ・・・誰か。

そして私はどこか知らないところに倒れ伏し、それからもう何も分からなくなったわ。

どのくらいの時間が過ぎたのか。私の目の前にあの人がいた。
『・・・フレドリック・・・?』
私が呼びかけると彼は優しく微笑んで言ったわ。

『奥方様、私のことは『タヴィス』とお呼び下さい。これからは私が貴女をお護りいたします。もう苦しみは終わりました。これから貴女の『空虚』を埋めに参りましょう。』と。」

リーアは足元の人形を抱き上げると『奥方様』の威容を少しだけ取り戻した。
「私の灼けるような渇きはまだ消えたわけではなかったけれど、彼の、タヴィスの言葉は私に久しぶりの安らぎを与えてくれたわ。
彼が優しく私を抱き上げ、美しく飾られた輿に横たえてくれると私はたちまち何の不安もない眠りに落ちた。
そして次に目を開けた時、目の前に初めての祭りの支度がすっかり整えられていたのよ。

タヴィスは私の見てきたもの、記憶の全てを知っていたわ。
祭りの支度はまるで館で開かれた祝宴がそのまま目の前に現れたようで、違いと言えば宴に招いた客がいないことくらいだった。
彼はそれらのものよりも今の私に最も必要な、私のために犠牲の子羊を誂えてくれていたの。
私に必要なのは魔力を持ったもの。元より化け物であったものなどはだめよ。元は何某かの生き物でそれが魔法によって人の形に変ったもの、それから人が魔物と取り換えられたものなどでも・・・私達の近くにもそういうものがいたでしょう? ふふ」

彼女は何か思い出したように言葉を切り、毒のある花の様に艶然と微笑むと優しい声で言った。
「ねえ、ジェイデン。知っていたかしら?ああ、先程タヴィスが伝えてしまったかしらね。

フェーンを食べたのは私よ。

そう、あの取り替え子が初めての犠牲の子羊だったの。
私は与えられた魔力をどう取り込めばいいのか良く解らなかった。
不慣れな私はもしかしたら初めての供え物に、痛みや苦しみを与えてしまったかも知れない。
でも、あの哀れな取替え子にそれが分かったか・・・今となっては知りようもない、もう過ぎたことですものね?

タヴィスの導きでようやく初めての魔力を取り込んだ時、私の中に渦巻いていたどうしようもない渇きが鎮まったの。私は身体の全て、髪の先まで力に満ち、まるで自分が光を放っているかのように感じたわ。

喜びにあふれる私にタヴィス少し悲しそうに言った。
『奥方様、心持ちが少し良くなりましたか?ですがそれも時間と共に失せてしまうでしょう。貴女の『空虚』はその程度で埋まるものではありますまい。きっと次の祭りが必要となる時がやって参ります。その時までに次の魔力を持つものを探し、用意しなければなりません。その旅路は貴女にとって辛いものになるやも知れませんが・・・。』

手にした安らぎはひとときだけ。またあの恐ろしい渇きがやってくる。
だけどほんのひとときでも魔力を含んだ血と魂の美味さが私の渇きを癒してくれることを知り、なによりも今はタヴィスが傍にいて私を護ってくれる。
だから私は少しも落胆せずに、むしろ明るい心持で答えたわ。
『構いません。貴方が一緒ならば』

私達は永い旅へと発ち、その後『空虚』を埋めるため幾度も魔力を持った生き物を食べた。
それでも私に与えられたのはひとときの歓びと癒しだけで、私の『空虚』は未だに埋まっていないの。

ここまで言えばもうわかるでしょう?
今の私にはどんな宝よりその娘の命と魂が必要なのよ」

飛び掛からんばかりの勢いで白い手を伸ばしてきた彼女を遮ったジェイデンが叫んだ。
「『空虚』を埋める魔力を取り込むため?そのためにお前は一体どれだけの犠牲を」

「黙っていてよ!今の私にはその必要があるの。生きるための食事と一緒よ。それの何が悪いの。私が欲しいのは人の間に居ては疎まれる者たちよ。それも犠牲は一年にたった一人で良いのよ。」

「人ではない疎まれる者達。そうだったとしてもフェーンはお前のたった一人の家族、妹だった」

「あの化け物を妹だなんて思ったことは一度もないわ!私の妹は取り替えられた時に死んだ。少なくとも私が食べたのは赤毛の醜いオーク女よ。魔物憑きや半獣人、人々にとって危険なものを私が取り込んで淘汰してあげているのよ。ほら、こうやってね!」

叫ぶように声高に話していた彼女はジェイデンの右腕を恐ろしい力で握りしめた。その白い指から根のようなものが伸び、彼の腕に食い込む。
どのようにして彼女が犠牲者たちを取り込んでいくのか身をもって知った彼は青ざめた顔で歯を食いしばり彼女の仕業をじっと見つめた。

彼女は思いもよらぬことをしたことに自分自身でも驚いていたが、流れ込む同族の血に頬を紅潮させ光の戻った目で彼を見つめ言った。
「ジェイデン!どうか私を見て頂戴。私の魔力が戻るさまをね。
ああ今解ったわ・・・。私、今まで食べてきた者たちよりも本当はあなたを食べたかったのよ。私の想いを知らず、私を見もせず、音楽とあの・・・」

彼女は言葉を切り、眉間に微かに皺を寄せた。

「・・・哀れな取り替え子だけを見つめて、ええ、『盲目の鳥』と呼ばれた名のままに詩と魔法とに心を向けていたあなたを。

ああ、もしもあの時フェーンだけでなくあなたも食べて『空虚』が埋まっていたなら、私もあなたもこんなところまで流れて来ることはなかったかもしれない。
あなたを残らず食べて、私は名の通りの『空虚』を埋め尽くして、それで私は呪いと共に消え失せていたかもしれないわ。

いいえ。それは来なかった未来のお話。そんなことを言っても虚しいだけよね?もう運命は動いてしまって戻ることなどできないのだから。」

『奥方様』は取り込んだ血からの魔力で落ち着きを取り戻し、鷹揚に微笑んで、掴んだ右手の力を緩め言った。

「ねえ、ジェイデン。それよりこれからのことを考えないこと?

そこにいる娘を貴方の代わりに食べれば、私の力も戻り、タヴィスも元の姿を取り戻してくれる筈、そうしたらまた旅へと発つことになるわ。
その時は私達と一緒に行かない?
タヴィスも貴方を喜んで受け入れてくれると思うわ。
私が『空虚』を埋める旅の間、貴方の音楽で救ってほしいのよ。貴方とタヴィスが付いていてくれたらあてのない旅路もきっと辛くはないはず・・・あっ」

楽しげに語っている彼女に黒い影が飛びつき、白い手に必死で噛付くとジェイデンの腕から根を振りほどいた。
思いがけない出来事に『奥方様』は一瞬怯んだが、彼女に襲い掛かってきたのが自分のための獲物とみると恐ろしい形相になり、娘をものともせずに跳ねつけた。

娘が倒れ伏し、彼女の想い人がそれを助けるのを目にした彼女は憎しみを込めて叫んだ。
「邪魔をするんじゃないわ!出来損ないの魔物ごときが私に触れるな。お前など私の前では何の力もない、ただ喰われることでしか役に立たない獲物よ。フェーンも今まで食べてきた魔物どももどれもこれも同じよ。呪われた化け物ども!
さあ、さっさとこっちに来るのよ。
ジェイデン、どいて頂戴。
もうこんな忌々しい魔物に煩わされたくないわ。不愉快なことはさっさと済ませてしまいたいの」

彼女の放つ冷酷な言葉に、ジェイデンは失望と憐憫を血を失った青白い顔に浮かべ、あくまで娘を庇う姿勢を崩そうとはしなかった。